フランスと私のこと

©Yuka Matsui

プロローグ

ある時期、私はとにかく日本以外のところで暮らしたいと願うようになった。当初、どうせなら書の勉強に中国へ行こうと安易に考えていたのだが、色々あって、行き先はフランスになる。東京で生まれ育った私は、できればパリ以外のところ、自然に囲まれた土地で暮らしてみたいという漠然とした思いがあった。そして南フランスという大らかなイメージに惹かれ、エクス=アン=プロヴァンスに語学留学を決めたのである。

ところが、出発数ヶ月前になり、不意に広げた地図を見ていたら、湖に目が止まる。その頃、登山が趣味だったので、アルプスの少女ハイジの生活に思いを馳せて、どうせ出発するなら山と湖のある街で暮らしてみたくなってしまった。
調べてみると、スイス国境に近いアヌシーという街には美しい湖があり、その湖畔に私立の語学学校もある。ここに行きたい。急遽、私は登録していたエクス=マルセイユ大学の前半の授業をキャンセルし、最初の数ヶ月先ずはアヌシーへ行くことにした。

留学を決めた頃は、「フランス」と「書」が繋がるなんて思いもしなかったが、本当に様々な出会いによって、現在の活動へと繋がることになる。

第一回は、「アヌシー」について