サント=ヴィクトワール山

© Yuka Matsui 障子 円窓 12-04-25 490mm x 660mm 2025

私が初めてサント=ヴィクトワール山を間近で見たのは、エクス=アン=プロヴァンスに語学留学していた時期(2006-7年)で、その時からこの山に、ある種の親近感を覚えていた。私がこの山に感じていたものは、富士山に対して感じることと似ているような気がしている。しかしこの山について調べてみると、サント=ヴィクトワール山は富士山のような火山ではない。ではなぜ、そんなに多くのエネルギーを持ち、なぜそんなに私に親密さを持たせるのだろうか。

かつてこの地は海の底で、そこに堆積した地層が隆起し、最高地点が山になった。つまり、山は海だった。私の作品の中には山が波のように見えたり、山が海のように見えたり、あるいは、地層の重なりのようになっているものもある。

そして富士山といえば北斎、サント=ヴィクトワール山といえばセザンヌ。この神秘的な東西の二つの山と、偉大な二人の芸術家にオマージュを捧げるという意味でも今回のテーマは、私にとってとても重要なものである。

最後に「障子」について言及したい。私の作品は「障子」を使っていることも特徴である。これらの障子は、取り壊されようとしていた家屋から運び出したものたちである。そこで暮らした家人たちの静かな証人でもある。物語を持った障子たちと、また新たな物語を紡いでいく。

再構築したり、幾何学的な形状を使って、墨の陰影、躍動感を呼応させていく。墨の内に秘めた力強さや、しなやかさと障子の区画化された空間との間に対話を試みている。

ぜひそれぞれの感性で、楽しみながらご覧いただけたら幸いです。

松井ユカ