1. ラ・ポワント・クールト

私がこの漁村の存在を知ったのは、アニエス・ヴァルダの映画でだった。
白黒の、時間を切り取ったかのような映像が印象的な作品。この映画は、二つのストーリが交わらずに進んで行く。ひとつは貧困の漁村の日常生活を描いた物語、もう一つは、パリから来たすれ違っているカップルの物語だ。
2018年にロデーズにあるスーラージュ美術館でのパフォーマンスの後、光栄にも、ピエール・スーラージュ氏本人にお会いする為、セットの地へ初めて踏み入れた。その際にセットへ行くならぜひこの漁村へ寄ってみたいと思ったのが、ここを訪れる最初の機会だった。
そこにはタンクトップ姿のおじさんたちが釣り糸を垂らし、その横には洗濯物がたなびく。時間が止まったかのような雲のない青空の下、小さな路地には汚れた毛並みの猫たちがノラノラと歩き、日陰では犬が完璧に寝ている、なんとも長閑な漁村だった。
またここには「ル・パッサージュ」と「シェ・ネネ」という新鮮な魚介類が食べられる庶民的なレストランもある。前者は、天板焼き料理がメインで、後者はメニューが4種類ほどの地元の人たちに大人気のレストランである。
特に、トー湖上に少し突き出て並んでいる掘っ建て小屋のレストラン「シェ・ネネ」は、ここがレストランだと知らないと気づかない、秘密の場所のよう。まるでアジアのような情緒ある水上レストランである。1週間ほど先の予約は必須で、地元の人たちで常にいっぱいという状況である。
この掘っ建て小屋(レストラン)に向かうエントランスには、猫小屋がアパルトルマンのように並び、猫たちが両脇に置物のように並び、時にはノラノラと歩いている。そして、一匹だけレストランに住んでいる店主の飼い猫がいて、マイペースなその姿は、常連の客に大人気である。(ただし猫だらけなので、猫が苦手な人にはお勧めできない。)因みに、犬(大型犬)が飼い主に連れられて来ていたけれど、怖がってなかなか中にたどり着けず、やっとの思いで席の下に入っても、尻尾を踏まれそうになったり、見ていて可哀想だった。猫が大丈夫な人間のみで行った方がいいと思う。
お料理については、豪快でシンプル。ただテーブルも場所も狭く、このコロナ下という状況においても衛生面で不安はあるし、お皿やコップなどもあまりに粗雑で、ムール貝の殻捨ては、もはやゴミ箱がテーブル上に置かれている。アジアの屋台を想像するといいと思う。お客さんたちは皆楽しそうに大皿で運ばれてくる魚介類やパスタを頬張っている。かくして私たちもこの夜は、この気分を楽しむことにした。
ポワント・クールトは、もちろんぷらりとこの小さな漁村を訪れるだけでも十分楽しめるけれど、気取らないレストランで食事するのも、地元の雰囲気を満喫したい人には、とてもおすすめ。
松井ユカ (2022年8月)