アーティスト・イン・レジデンス  A.T.E.N.A

1. アーティスト・イン・レジデンス  A.T.E.N.A

レジデンスで制作した障子シリーズ © 2022 Matthieu Séguéla

丁度、パンデミックが始まった年、2020年の夏にセットで女性アーティストの為のアーティスト・イン・レジデンスがあることを知り、2023年まで、毎夏このアトリエで、制作活動をさせていただいた。

このレジデンスでは、書類審査を経て集まった国籍の違う女性アーティスト5名が、3年間で自ら選んだテーマを研究発表する。そして最終年(2023年)に、
La Chapelle du quartier Haut(現在ギャラリースペースとして使用されている地元の教会)にて、成果を発表することが条件となっている。

私がこのレジデンスで選んだテーマは「モンサンクレール 」。
セットという街に位置していて、トー湖と地中海の間に浮いている小高い丘である。地元の人には鯨島とも呼ばれ、また360度見た角度で形が微妙に変わる、なんとも魅力的な丘である。

年毎に記録を残したいので、以下にまとめる。(各年毎にリンク先へ飛べます)

2020年 …. 正式には2021年だが、パンデミックで予定していたアーティストがこの年来れなかったため、一週間だけ先行滞在する。
2021年 …  制作研究開始。セット美術大学でのスタージュ講師、Festival de poésie Voix Vives参加。
2022年 …  成果途中発表。l’école Eugénie Cottonでデモンストレーション。
2023年…   7月の一ヶ月間滞在し、全作品完成させる。l’Echappée belleにてサイン会。11月にLa Chapelle du quartier Hautにて合同展示会。

ラ・ポワント・クールト

4.  ラ・ポワント・クールト

対岸から臨むラ・ポワント・クールト © 2022 Yuka Matsui

私がこの漁村の存在を知ったのは、アニエス・ヴァルダの映画でだった。
白黒の、時間を切り取ったかのような映像が印象的な作品。この映画は、二つのストーリが並行して描かれている。ひとつは貧困の漁村の日常生活を描いた物語、もう一つは、パリから来たすれ違っているカップルの物語だ。そしてこの夫の故郷である漁村を訪れた夫婦が、互いに向き合っていく姿を、静かにカメラが従えていた。

アニエス・ヴァルダの名を冠した通り(TRAVERSE Agnès VARDA)© 2018 Yuka Matsui

2018年8月にロデーズにあるスーラージュ美術館でパフォーマンスとワークショップをさせて頂いた翌日、光栄にも、ピエール・スーラージュ氏本人より自宅兼アトリエへ招待いただいたことが、セットと言う街を初めて訪れる機会だった。その際に、ぜひこの漁村へ寄ってみたいと思い、セットでの滞在最終日に連れて行っていただいたのである。

スーラージュ美術館でのパフォーマンスの様子  2018/ 08/07  ©Michel Roynal
スーラージュ美術館でのワークショップの様子  2018/ 08/07    © Matthieu Séguéla
スーラージュ美術館でのイベントの翌日の新聞記事  2018/ 08/08    © Matthieu Séguéla

このイベントの翌日の出来事、スーラージュ氏との邂逅については、また別のトピックで詳しく書きたいので、ここでは、ラ・ポワント・クールトについて記したい。

初めて訪れたその地は、珍しく曇り空の日で、まさに映画の印象のまま、寂しい村の印象だった。小さなこの土地は、観光客がいてもいつものどかな雰囲気が漂っている。特に、この日は寂しいお天気も手伝ってか、ほとんど人を見かけず、猫とお店の人くらいにしか会ったことを覚えていない。そしてどんよりした憂鬱な表情のトー湖と。

トー湖を眺めながら「ル・パッサージュ」でのアペリティフ © 2018 Yuka Matsui

翌年以降、再度訪れた際は、いつも時間が止まったかのような雲ひとつない青空。小さな家が詰めあって並び、その脇の小さな路地には汚れた毛並みの猫たちがノラノラと歩き、日陰では犬が完璧に寝ている、なんとも長閑な風景が広がっている。

完璧なお昼寝 © 2020 Yuka Matsui
トー湖に面した通り © 2020 Yuka Matsui

ところでここには、「ル・パッサージュ」と「シェ・ネネ」という新鮮な魚介類が食べられる庶民的なレストランがある。2018年以降は、時間があれば、この漁村へ遊びに来ていて、その度、前者のレストランで食事を楽しんでいた。後者の方は毎回気になっていたけれど、予約のタイミングが合わず、謎のままだった。しかし遂に2022年の夏にこの謎のレストランで夕食をする機会がやってきたのである。

奥に臨む明かりが灯ってる水上小屋が「シェ・ネネ」© 2022 Yuka Matsui

この知る人ぞ知る謎のレストラン「シェ・ネネ」は、トー湖上に少し突き出て並んでいる掘っ建て小屋で、ここがレストランだと知らないと気づかない、秘密の隠れ家のよう。突然アジアのような、情緒ある水上レストラン。メニューは、4種類ほどしかなく、店主のこだわりが感じられるお店。1週間ほど先の予約は必須で、地元の人たちで常にいっぱいとのこと。

「シェ・ネネ」の近く© 2018 Yuka Matsui

この掘っ建て小屋(レストラン)に向かうエントランスには、両側に猫小屋(実際には猫が住む犬小屋もある)がアパルトルマンのように並び、あちこちで猫が徘徊している。でも一匹だけレストランに住むことを許可されている、店主の特別な猫がいて、常連客のアイドルである。その猫は、常にマイペースな姿で、次から次へとお客さんが向けるカメラに収まっていた。

因みに、一匹の犬(大型犬)が飼い主に連れられて来ていたけれど、あまりの猫の多さに、怖がってなかなか中にたどり着けず、やっとの思いで席の下に入っても、狭いお店の中で、尻尾を踏まれそうになったり、見ていて気の毒で仕方なかった。

「シェ・ネネ」アペリティフの生牡蠣 © 2022 Yuka Matsui

豪快でシンプルなお料理たちは、その隠れ家水上レストランの雰囲気を楽しむのに充分で、私たちもよく冷えた安価な白ワインと、お料理を楽しくいただいた。ただ本音をいうと、テーブルも場所も狭く、私たちが行った時はコロナ下ということもあり、衛生面で不安はあるし、お皿やコップなどもあまりに粗雑で、ムール貝の殻捨ては、もはやゴミ箱がテーブル上に置かれていて、最初戸惑ってしまった。でもみんなが、大皿で運ばれてくる魚介類やパスタを楽しく頬張っているので、私も衛生面のことはとりあえず忘れて(豪快なお料理の写真を撮るのも忘れてしまった!)、すっかり楽しい夜を過ごした。

食事の後は、夜の光の中、生活感漂う狭い路地の中を歩き、村の人々の生活を想像しながら、野良猫たちに至る所で出会う。私の着ていた服とお揃いの色の猫ちゃんに話しかけてみたが、猫のほうは、かなり警戒していた。

さて、冒頭で触れたように、ポワント・クールトは、アニエス・ヴァルダの映画で有名な場所ですが、映画を見ていなくても、ぷらりとこの小さな時間の止まったような漁村を訪れるのも楽しいし、気取らないレストランで食事するのも、地元の雰囲気を満喫できて、オススメです。ただレストランは事前予約するのを、忘れずに!

レストラン「ル・パッサージュ」の店内には、映画「ラ・ポワント・クールト」の撮影当時の写真が飾ってある © 2018 Yuka Matsui

ATENA – アーティスト・イン・レジデンス (フランス、セット)

2020年7月20日−8月15日

南仏にあるセットという港町で、ペズナス(フランス)と京都の展示会に向けた作品制作をしました。両展示会には、フランス・サラスクにアトリエを持つ、アトリエ・パプティエのブノア・デゥドニョンの手漉き和紙を使用しています。また、京都の展示に向けては、セット在住のアーティスト兼、ATENAの代表でもあるリズ・シュバリエと共に、「自然、木」をテーマに、ブノア・ドゥドニオンの和紙を使用し、制作しました。
滞在中、撮影、新聞のインタビュー、市長の訪問など様々な体験をさせて頂きました。お世話になった皆さまに心より感謝いたします。